2019年6月11日

「槍ヶ岳とともに  穂苅家三代と山荘物語」

最近読んだ本をご紹介します。

「槍ヶ岳とともに  穂苅家三代と山荘物語」
昨年のウエストン祭で講演をしてくださった菊地俊朗氏の著作です。
今年の夏は槍ヶ岳に行こう!


槍ヶ岳山荘を作った穂苅三寿雄氏、二代・貞雄氏、三代目・康治氏を通して槍ヶ岳や北アルプスの小屋や登山事情を描いています。

三寿雄氏は1917(大正6)年に、北アルプス南部で初めての営業小屋である槍沢小屋を作りました。そして1926年には槍ヶ岳肩ノ小屋を建設しました。

信濃毎日新聞の統計によれば、1919(大正6)年の槍ヶ岳の登山者は年間で425人。
しかし、その2年後の殺生小屋の開業で槍ヶ岳登山者は急増、そして肩ノ小屋の登場でさらに増えることになります。

時代はめぐり、戦後、学生や若者を中心とした厳しい登山を目指す時代を経て、中高年層を中心とした現在に続く登山ブームを迎えます。いつの時代も、山小屋の存在が登山を支えていることがよくわかります。

そして山小屋の運営も、荷揚げが歩荷からヘリコプターの活用へ、トイレや食事も時代とともに変遷していきました。

小屋の登場で、槍ヶ岳を目指すルートも様変わりしました。
中房温泉から東鎌尾根、小林喜作が作った喜作新道を経るルートがメジャーだったものの、今では全体の1割程度と推定されます。上高地から槍沢ルートが一番多いのではないかと思いますが、その結果それまであまり見向きされなかった槍沢小屋(現在の槍沢ロッジ)が重要な役割を果たすようになりました。

穂苅家三代の歴史は大正、昭和、平成の日本の登山史の縮図でもあります。

本書では他にも、
・山小屋の舞台裏のこと(小屋での仕事だけではなく、荷揚げ(昔は歩荷、1970年台頃からヘリ)から、食材の発注や経理まで、果てしない仕事量です)
・槍の穂先の歴史(現在の祠は何代目?)
・槍に鎖をかけてくれたのは誰?!

などなど、槍ヶ岳にまつわる情報が盛りだくさんです。

また、三寿雄氏、貞雄氏、康治氏の人となりや、小屋を支えてきた人たちにも触れています。
まるでファミリーヒストリーや情熱大陸を見ているかのような、熱い人間ドラマです。

槍ヶ岳に登ったことがある人にはもちろん、これから行く予定の方にもオススメの本です。
槍ヶ岳を100倍楽しめるのではないかとわたくしは思います!


山研委員・わだこ記

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